梁山から来ました

中華圏の小説、ポーランドボール、SCP財団、作曲、描画などが好き。皆様のお役に立てる/楽しんでいただけるコンテンツ作りを目指して、試行錯誤の日々です。

「武俠好きさんに質問」第24回への回答(シーン編)

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まずは「お気に入りのシーン」について。

セリフ・会話に関しては、また機会を改めて回答します。

武俠の醍醐味は戦闘シーン……という方が大多数かと思うのですが、この点、自分はよほど好みが変わっていて、たくさんの人が集まってごちゃごちゃ話してるシーンが、とにかく好きなのです。

 

飛狐外伝』は、掌門人大会が始まって24個の杯を奪い合う話をしてるところ。

雪山飛狐』は、外界との連絡手段を断たれた人々が各々の秘密を打ち明ける場面。

連城訣』は、水笙を迎えに来た人々が花鉄幹の言い分を信じてしまう場面。

天龍八部』は、三十六島七十二洞の大会とか、少林寺の前でのやりとりなど。

『射鵰英雄伝』は、乞食党の大会と、鉄槍廟の中での黄蓉の推理。

鹿鼎記』は、神龍島のクーデタ未遂とかネルチンスク条約締結とか。

笑傲江湖』は、五覇崗や令狐冲の掌門就任式、五嶽剣派の大会などなど。

書剣恩仇録』は、鉄胆周旦那が「静まれーい!静まれーい!」ってやってる場面。

『神鵰剣俠』は、全真教の教主を決めるところと丐幇の幇主を決めるところ。

『俠客行』は、俠客島に集まった人々が臘八粥をよばれてる一幕。

倚天屠龍記』は、六派連合と張無忌の対決や丐幇の大会、それに少林寺

碧血剣』は、李自成の入城後、側近や兵士たちの心が少しずつ離れていくくだり。

 

腹黒い登場人物の陰謀により、または偶然の重なった結果で、場の流れが作られ、なんとなく合意形成に向かっていってしまう、その過程が非常に興味深いです。

また、場面によっては、話し合いの中盤以降に主人公側の人物が敢然と立ちあがり、権力者を茶化したり、卓越した武功を見せつけたり、時には自分の命と引き換えにして、場を支配している「流れ」をガラリと変えてしまうこともあり、それはそれでたまらなく魅力的です。

 

金庸先生は、別名義で香港の新聞に社説を連載し、中華圏の政治状況を、ずっと観察し続けた方です。こうした経歴があってこそ、長篇12作のそれぞれにバリエーションに富んだ話し合いの場面を織り交ぜることができたんですね。

そして、「武俠」というジャンルは、一見荒唐無稽な世界観に見えつつも、深いところで現実世界のあり様を的確に反映しているからこそ、単なるエンタメにとどまらず、文化的に大きな意義を持っているのだと、個人的には考えています。